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Q&A

ボツリヌス療法Q&A

調製・取扱い・失活・廃棄効果

Q ボトックスとは何?

A  「ボトックス」は、A型ボツリヌス毒素を有効成分とする骨格筋弛緩剤であり、発汗抑制作用も有する薬剤です。
本剤は、末梢の神経筋接合部における神経筋伝達を阻害することにより筋弛緩作 用を示し、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸、上肢痙縮、下肢痙縮、および小児脳性麻痺患者の下肢痙縮に伴う尖足における筋の攣縮および緊張を改善します。また、交感神経節後ニューロンの神経終末から汗腺への情報伝達を阻害することにより発汗抑制作用を示し、重度の原発性腋窩多汗症における過剰な発汗を改善します。
ボツリヌス療法で使われる「ボトックス」は、ボツリヌス菌が作り出す毒素を精製して作った製剤です。ですから、菌そのものを投与するものではありません。体の中にボツリヌス菌が入ることはありませんし増えることもありません。

Q     ボトックス 1バイアル中に含まれる成分および添加物は?

A 「ボトックス100」1バイアル中には、A型ボツリヌス毒素100単位、人血清アルブミン0.5㎎、塩化ナトリウム0.9㎎、
「ボトックス50」1バイアル中には、A型ボツリヌス毒素50単位、人血清アルブミン0.25㎎、塩化ナトリウム0.45㎎が含有されています。
なお、1単位とは、マウスへの腹腔内投与による50%致死量(LD50値)を定めています。

Q    ボトックスの基本情報(薬価基準収載年月日、発売年月日、承認年月日、国際誕生年月日、薬効分類、規制区分、和名、一般和名、洋名、一般洋名、名称の由来)については?

A 弊社製品基本情報サイトにてご確認いただけます。
製品基本情報サイト:
https://www.healthgsk.jp/products-info/botox/index.html

Q    ボトックスの溶解・希釈方法は?

A    溶解は、保存料を含まない日局生理食塩液で行います。 顔面の小さい筋への投与には、通常1~2mLの生理食塩液で1バイアル(100単位/50単位)を溶解します。痙性斜頸や痙縮の治療では対象筋が大きいので、これより多い量で溶解する場合があります。
また、重度の原発性腋窩多汗症に対して投与する場合は、100単位を4mL程度の生理食塩液で溶解することが推奨されます。一般に、濃い溶液では狭い範囲に、薄い溶液では広い範囲に効果を及ぼします。

ボトックスについて

Q ボトックスの有効期限または使用期限、貯法・保存方法については?

A  有効期限または使用期限は3年間です。(外箱に記載)

5°C以下の冷所に保存してください。保存剤を含んでいないので、調製後は速やかに使用してください。また、調製後は冷凍しないでください。

ボトックスについて

Q ボトックスの投与後の注意・注射部位に対する注意は?

A  注射後は、毒素の無用な浸潤を避けるため、数時間は注射部位をもまないようにご指導ください。

ボツリヌス毒素はアルカリで失活しますので、針穴が完全に閉じるまで(数分)、注射部位を石鹸で洗わないように指導してください。

Q ボトックスは、医師なら誰でも使用(投与)できますか?

A  ボトックス講習・実技セミナー受講医師のみが使用可能です。

承認条件の中に「本剤についての講習を受け、本剤の安全性及び有効性を十分に理解し、本剤の施注手技に関する十分な知識・経験のある医師によってのみ用いられるよう、必要な措置を講じること。」とあることから、使用医師の限定を設定しております。

Q ボトックスによる汚染が生じた場合の処理方法は?

A  1)本剤が飛散した場合はすべて拭き取ります。溶解前の場合、0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液をしみ込ませた吸収性素材で拭き、乾かします。溶解後の場合は、吸収性素材で拭きとった後に、0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で拭き、乾かします。
2)本剤が皮膚に付着した場合は、0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で5分洗い、水で洗い流します(通常の石鹸で洗っても失活します)。
3)本剤が眼に入った場合は、水で洗い流します。

Q ボトックスの失活・廃棄って?

A  ボトックスは、下記承認条件が付されている関係上、所要の失活・廃棄処置を行う必要があります。
ボトックス承認条件(抜粋)
3.本剤の使用後に失活・廃棄が安全・確実に行われるよう、廃棄については薬剤部に依頼する等、所要の措置を講じ、廃棄に関する記録を保管すること。

Q ボトックスの失活・廃棄の方法は?

A  0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で失活します。

ボツリヌス毒素が接触した器材はすべて、0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液に5分間以上浸潤してください。

ボトックスの廃棄の方法

残った薬液は、0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液を加えて失活させます。失活後、密閉可能な廃棄袋又は箱に廃棄してください。

薬液の触れた器具等も同様に0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液を加えて失活させた後、密閉可能な廃棄袋又は箱に廃棄してください。

治療一般

Q 施注時の患者さんの姿勢は?

A 眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、重度の原発性腋窩多汗症では臥位、痙性斜頸、上肢痙縮では座位が基本です。下肢痙縮および小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足では、最も安定した姿勢で治療できるように配慮してください。

Q 施注時の痛みはどの程度ですか?

A 痛みに対する感受性は個人差が大きく、一概に述べることはできません。

一般に痛みは細い針を使ったときに小さく、太い針を使ったときに大きくなるといわれています[1]ので、特に顔面への注射の際には、細い針を使ったほうが、痛みも小さく出血も少ないことになります。痛みに過敏な患者さんに対しては、適宜前処置を行ってください。

  1. Skiveren J, Nordahl Larsen HN, Kjaerby E, Larsen R. The influence of needle size on pain perception in patients treated with botulinum toxin A injections for axillary hyperhidrosis. Acta Derm Venereol 2011; 91: 72-74

Q 患者さん一人当たりの治療時間は?

A 目安として10~30分程度です。

ボトックスの初回治療の前には、文書による説明を行い治療への同意を文書にて取得しなければなりません。また、痙性斜頸、上肢痙縮、下肢痙縮、および小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足の治療では、投与部位を決定するのに時間がかかる場合もあります。

Q 入院の必要は?また、投与後すぐに帰宅させてもいいですか?

A 基本的には、すぐに帰宅されて問題ありません。

注射直後に体調不良が生じていないかを必ずご確認ください。

Q 治療後の日常生活上の制限は?

A 眼瞼痙攣・片側顔面痙攣では顔面部に注射しますので、注射当日の洗顔・化粧は不可となります。痙性斜頸・上肢痙縮・下肢痙縮・小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足・重度の原発性腋窩多汗症では、注射当日は、注射部位をもむことや入浴、激しい運動などを控えさせてください。また、ボツリヌス毒素はアルカリで失活しますので、針穴が完全に閉じるまで(数分)、注射部位を石鹸で洗わないように指導してください。

注射の翌日以降は、特に日常生活上の制限はありません。

Q 使用する注射針の太さおよび長さは?

A 眼瞼痙攣・片側顔面痙攣では26~30ゲージ、痙性斜頸・上肢痙縮・下肢痙縮・小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足では23~30ゲージ、重度の原発性腋窩多汗症では30~32ゲージが基本となります。

針の長さはおおむね太さに応じて決まりますが、眼瞼痙攣・片側顔面痙攣・重度の原発性腋窩多汗症では数mm程度あれば十分であるのに対し、痙性斜頸・上肢痙縮・下肢痙縮・小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足では、ある程度長くないと深部筋に到達できません(特殊な針を使う必要はありません)。また、細い方が痛みは少ないのですが、深部筋への注射では、ある程度太い針の方が安全と考えられています。

Q なぜ各筋に対して複数箇所投与しなければならない?

A ボツリヌス毒素の作用部位は運動終板(motor endplate)とされています。

終板領域が明らかであれば、その部分へのボツリヌス毒素を注射することが最も効率的です。しかし、終板領域が特定されている筋はごく一部です。そこで、どの筋にもまんべんなく注射するのが原則となっています。また、終板領域が特定されている胸鎖乳突筋でも、治療成績から筋全体に注射したほうがよいとの報告があります。[1]

  1. Falla D, Dall'AlbaP,Ranoldi A et al. Location of innervation zones of stemocleidomastoid and scalene muscles-a basis for clinical and research electromyography applications. Clin Neurophysiol 2002; 113: 57-63

Q ボトックスの投与による寛解は?

A ボトックスは対症療法なので、基本的には繰り返しの投与が必要になります。

投与の回数・間隔は患者さんの症状によって異なります。眼瞼痙攣および痙性斜頸はジストニアなので、寛解症例も見られます。[1][2][3][4]
報告により異なりますが、1年以上の自然寛解率は1割程度、大半の症例が再発し、完全寛解率は数%と考えられます。また、ボツリヌス療法により改善した患者さんでは、自然寛解率が上昇する可能性があるとの報告もあります。

  1. Kostic VS, Stojanovic M, Sternic N.Long-term effects of botulinum toxin in focal dystonias after discontinuation of the therapy. Mov Disord 1995; 10:373
  2. Slawek J, Nojszewska M, Friedman A, Cielecka A, Duzyn'ski W, Bogucki A, Krygowska-Wajs A. Long-lasting remissions after botulinum toxin A injections in patients with idiopathic spasmodic torticollis. Eur J Neurol 2000; 7(suppl 3): 79
  3. Slawek J, Cielecka A, Duzyn'ski W.Prognostic factors of long-standing improvement in cervical dysonic, treated with botulinum A toxin. Neurol Neurochir Pol 2002; 36: 47-56
  4. Giladi N,Meer J, Kidan H, Honigman S. Long-term remission of idiopathic cervical dystonia after treatment with botulinum toxin. Eur Neurol 2000; 44: 144-146

Q 避妊はどれくらい必要?

A 「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人及び授乳婦」への投与は禁忌です。妊婦、授乳婦に対する安全性は確立していません。添付文書の使用上の注意には以下のように記載されています。
「妊娠する可能性のある婦人は、投与中及び最終投与後2回の月経を経るまでは避妊する〔妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。〕」
「男性は、投与中及び最終投与後少なくとも3ヵ月は避妊する。〔精子形成期間に投与されることを避けるため。〕」

Q 以前にボツリヌス中毒により抗毒素を投与された経験のある患者さんへの投与は可能?

A ボツリヌス中毒に対して抗毒素による治療を受けた患者さんにボトックスを投与した報告はありません。

日本の抗毒素には、A,B,E,F型抗毒素の混合製剤とE型抗毒素のみの製剤があります。ボトックスはA型ボツリヌス毒素製剤ですから、前者の使用例では、抗体が体内に残存しているうちは、効果がないと考えられます。しかし、抗毒素抗体の予防効果は、2週間とされています。抗体価は次第に低下すると考えられるので、直後に治療を行うのでない限り、ボトックスによる治療は有効と考えられます。また、E型抗毒素製剤の場合は、問題ありません。

Q 筋電図、超音波を用いずに治療筋を同定できますか?

A 眼瞼痙攣・片側顔面痙攣では、特に使用しなくても可能と考えられます。

痙性斜頸・上肢痙縮・下肢痙縮・小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足では、表在筋の緊張は視診・触診で確認できます。深部筋は触診できないため、必要に応じて筋電図、超音波を用いて同定する必要があります。

Q ボトックスに対する一次耐性の原因は?

A 適切な治療にもかかわらずボツリヌス療法の効果が最初から見られない状態を一次耐性といいます。

(1)注射部位に麻痺が生じない場合

1. 投与量の不足

2. 低感受性

3. 抗毒素抗体の存在

4. 心理的影響:精神状態が不安定だと効果が発現しにくい。

5. もぐら叩き現象:治療した筋の緊張が低下した後、その協働筋があらたに亢進して元の異常姿勢を再現してしまう。

(2)注射部位に麻痺が生じている場合 

1. 眼瞼痙攣:開眼失行の関与が大きい。皮膚弛緩症が関与している。

2. 片側顔面麻痺:下部顔面筋で無効例が多い。下部顔面筋は解剖が複雑で、攣縮している筋すべてに投与するわけではないため、注射部位の不足または不適切になりがち。

3. 痙性斜頸・上肢痙縮・下肢痙縮・小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足:注射部位の不足もしくは誤り、不正確な投与手技、用量不足、深筋部の緊張、抗毒素抗体の存在

・特に痙性斜頸及び小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足の場合、初回に使用できる用量が少ないため、十分な効果を得られない場合があります。その場合には、初回の効果(無効)で一次耐性と判断せずに、十分な反復投与後にも効果がない場合を一次耐性とします。

Q ボトックスに対する二次耐性の原因は?

A 初回の治療では有効であったのに、途中から治療効果が失われる場合を、二次耐性とよびますが、二次耐性のもっとも重要な原因は、抗毒素抗体の産生です。

このほか、眼瞼痙攣の場合は開眼失行の悪化、痙性斜頸の場合は主働筋の深部筋への移行が考えられます。また、痙性斜頸では、経過とともに筋緊張亢進する筋が変化することが確認されているので[1]、投与すべき筋を新たに探す必要があります。

  1. Mu'nchau A,Filipovic SR,Oester-Barkey A Quinn NP,Rothwell JC,Bhatia KP,Spontaneously changing muscular activation pattern in patients with cervical dystonia.Mov Disord 2001;16:1091-1097

Q 眼球穿刺を起こしたときの対処方法は?

A すぐに針を抜き、眼球外傷として、眼科に受診していただいてください。

上肢痙縮・下肢痙縮

Q 脳卒中後の痙縮に対するボツリヌス療法は、脳卒中発症後どれくらいの時期に始めるのが最も効果的ですか?

A 欧州およびUKにおける痙縮に対するボツリヌス療法のガイドラインでは、治療を始める時期が明記されていません。文献では、脳卒中発症から6週間以上[1]、3ヵ月以上[2],[3]、6ヵ月以上[4]など、さまざまな開始時期の報告があり、いずれにおいても痙縮の軽減効果が認められています。国内臨床試験では、脳卒中発症後6ヵ月以上経過した患者において、上肢[5]及び下肢[6]痙縮の軽減効果が認められました。

  1. Childers MK, et al. Arch Phys Med Rehabil 2004; 85:1063-1069.
  2. Rosales RL, et al. J Neural Transm 2008; 115:617-623.
  3. Bakheit AM, et al. Eur J Neurol 2001; 8:559-565.
  4. Brashear A, et al. N Engl J Med 2002; 347:395-400.
  5. Kaji R, et al. Curr Med Res Opin 2010; 26:1983-1992.
  6. Kaji R, et al. J Neurol 2010; 257:1330-1337.

Q 国内臨床試験では、痙縮発症から何年以内の患者がボツリヌス療法の対象とされましたか?

A 国内臨床試験では、ボツリヌス療法の対象症例の選択基準として、痙縮発症後の年数が規定されていません。脳卒中発症後の平均罹病期間は6年前後です。ただし、痙縮が進行して非可逆的拘縮に至った患者は投与対象から除外されました。

  1. Kaji R, et al. Curr Med Res Opin 2010; 26:1983-1992.
  2. Kaji R, et al. J Neurol 2010; 257:1330-1337.

Q 痙縮に対してボトックスを注射する際、筋電計や超音波検査、スティミュレーターなどによる筋の同定は必須ですか?

A 深部筋は触診による同定が難しいため、筋電計や超音波検査、スティミュレーターなどを用いて確認することが必須と考えられます。また、注射の標的筋とボツリヌス毒素の効果が及んでは困る筋が近接している場合にも、前述の同定方法により筋をしっかり同定することが大切です。

笠原隆,正門由久:第5章成人の痙縮.神経疾患のボツリヌス治療.梶龍兒,目崎高広編,診断と治療社.2009,pp65-80.

Q 上肢と下肢の両方で痙縮がみられる場合、ボトックスで同時に治療することは可能ですか?また、投与量の目安は?

A 国内臨床試験では、上肢痙縮と下肢痙縮に対するボトックスの同時投与が行われていませんが、海外臨床試験では上肢及び下肢痙縮に合計360単位を同時に投与したとの報告があります[1]。そのため、同時投与では投与量の上限が360単位とされています。

  1. Yablon S. et al. Dose Response with OnabotulinumtoxinA for Post-Stroke Spasticity: A Pooled Data Analysis. Mov Disord 2011; 26: 2

ボトックスについて

Q 痙縮による複数の変形があるとき、投与部位の決定方法は?

A 痙縮患者において、複数の変形を有する場合は少なくありません。このとき、一度の治療ですべての変形の対象筋における筋緊張亢進を取り去ることはできません。変形を総合的に分析し、患者さんと話し合い、一番困っている症状から改善するように慎重に投与部位を決定し、治療を進めていくべきです。

Q 理学療法や作業療法を行わない上肢・下肢痙縮患者にはボツリヌス療法を施行できませんか?

A 理学療法や作業療法を行わない患者でも、痙縮による痛みの治療や介護負担軽減のためにはボツリヌス療法を施行できます。ただし、リハビリテーションを行わなければ機能の回復は望めません。

Q 痙縮患者に対するボトックスの長期投与は安全ですか?

A 国内臨床試験ではボトックス長期投与のデータがありませんが、海外では最長12年に及ぶ長期投与の成績が報告されています。この研究では、平均7.5年(2~12年)にわたってボツリヌス療法を継続した137例のレトロスペクティブな解析が行われ、副作用はすべて一過性であること、その発現率は短期投与の成績と同等であることが確認されました。

Mohammadi B, et al. Neurol Res 2010; 32:309-313.

Q 前回のボツリヌス療法の効果が不十分の場合、その原因はなんですか?

A 前回の治療効果が不十分の場合、下記の原因が考えられます。

1. 標的筋の選択が誤っている(痙縮の原因筋ではない)
2. 投与量が足りない
3. 標的筋の同定が不正確(実際に標的筋にしっかり入っていない)
4. 病態が進展している(筋の線維化または関節の拘縮など)
5. まれだが抗体産生の可能性

Wissel J, et al. J Rehabil Med 2009; 41:13-25.

Q 上肢痙縮・下肢痙縮におけるボトックスの安全性は?

A 脳卒中後の上肢痙縮患者を対象とした国内臨床試験において、総症例106例中17例(16.04%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。その主なものは、脱力(感)3例(2.83%)、CK(CPK)上昇3例(2.83%)でした(承認時)。脳卒中後の下肢痙縮患者を対象とした国内臨床試験において、総症例115例中18例(15.65%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。その主なものは、注射部疼痛5例(4.35%)、筋痛3例(2.61%)、発疹2例(1. 74%)でした(承認時)。

眼瞼痙攣

Q 眼瞼痙攣に対する有効率は?

A 国内臨床試験においては、89.9%(症例数88 評価可能79例 「著明改善」「改善」「やや改善」「不変」「増悪」と5段階に評価し、改善以上71例)です。

ボトックスについて

Q 開眼失行に対する効果は?

A 眼瞼痙攣を合併している開眼失行にも有効ですが、純粋な眼瞼痙攣に比べると効果は劣ります。

ただし、重症筋無力症の初期症状など、開眼失行や眼瞼痙攣と紛らわしい疾患もありますので、正確な鑑別診断が必要です。

ボトックスについて

Q 下眼瞼の鼻側に施注してもよい?

A 内眼角より鼻側に注射針が入ると、鼻涙管に薬液が浸潤してしまい、流涙を生じることがあります。下眼瞼の最内側部は注射部位として不適切ですので避けてください。

ボトックスについて

Q 眼輪筋切截術施行後の患者さんに対しての、ボトックスによる治療は?

A 手術による局所の炎症や出血が治まり、数ヵ月経過を観察し、手術の効果が不十分であることを確認してから行ってください。眼輪筋切截術施行後の患者さんに投与する場合には、筋が変性している可能性がありますので、筋電計を用いて目標とする部位を同定することが必要な場合もあります。

ボトックスについて

Q 眼瞼痙攣におけるボトックスの安全性は?

A 眼瞼痙攣を対象とした使用成績調査6445症例中、652例(10.12%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。その主なものは、眼瞼下垂141例(2.19%)、兎眼・閉瞼不全138例(2.14%)、流涙67例(1.04%)でした(再審査終了時)。

ボトックスについて

片側顔面痙攣

Q 片側顔面痙攣におけるボトックスの有効率は?

A 国内臨床試験においては、74.5%(症例数97 評価可能94例 「著明改善」「改善」「やや改善」「不変」「増悪」と5段階に評価し、改善以上70例)です。

ボトックスについて

Q 片側顔面痙攣と鑑別すべき疾患は?

A 眼瞼痙攣、メージュ症候群、チック、眼部ミオキミア、顔面連合運動などです。

ボトックスについて

Q 片側顔面痙攣でボツリヌス療法を優先する対象となる患者さんは?

A 片側顔面痙攣の根治療法として神経血管減圧術(Jannetta手術)がありますが、顔面痙攣は生命に関わる病態ではないため、患者さんは手術を忌避する傾向が強いようです。以下のような理由で手術の施行が難しい患者さんはボツリヌス療法の対象となります。

  • 手術は全身麻酔で行われるため、全身麻酔にハイリスクである患者さん
  •  手術による聴力障害の発生リスクは低いものの、発生すればQOLを著しく低下させることから、既に健側に聴力障害のある患者さん
  • 過去に手術を施行されても症状が改善しなかった患者さん
  • 手術で痙攣が消失したものの、数年を経て再発した患者さん
  • 他の理由で手術を受け入れられない患者さん

日本神経治療学会治療指針作成委員会編. 標準的神経治療:片側顔面痙攣. 神経治療 2008;25:481-493.

ボトックスについて

Q 片側顔面痙攣におけるボトックスの安全性は?

A 片側顔面痙攣を対象とした使用成績調査10288症例中、725例(7.05%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。その主なものは、兎眼・閉瞼不全195例(1.90%)、局所性筋力低下、顔面麻痺各158例(1. 54%)、流涙80例(0. 78%)でした(再審査終了時)。

痙性斜頸

Q 痙性斜頸に対するボトックスの有効率は?

A 国内臨床試験においては、41.6%(症例数174 評価可能166例 「著明改善」「改善」「やや改善」「不変」「増悪」と5段階に評価し、改善以上69例)です。

Q 症状が複雑なときの、投与部位の決定方法は?

A 痙性斜頸の症状は、回旋、前後屈、側屈、肩挙上、側彎などの要素に分解できます。

しかし、これらの1つだけを呈する例は少なく、通常は、いくつか複合しています。
複雑な症状を持つ症例では、異常姿勢を上記の要素に分解し、どれが中心となっているかを見定め、主たる要素になっていて、触診上最も強い緊張を認める筋が、最初の治療対象になります。
痙性斜頸の場合、一度の治療ですべての筋緊張の亢進を取り去ることはできません。患者さんと話し合い、一番困っている症状を改善する治療を第一選択とすべきです。

Q 痙性斜頸の場合、施注を行う深部筋も多く、複雑です。針の刺入の目安となる数値はありますか?

A 皮下組織や皮膚直下の筋に個人差が大きいため、ありません。

Q 投与量は毎回異なる?

A 毎回異なると考えてください。

前回の治療効果が残ったまま次回の注射日を迎えることも多いので、まず投与する筋が変わります。また、もぐらたたき現象も起こる可能性もあります。ですから、毎回異常姿勢を観察し、新たな視点で治療対象となる筋・投与量を決定してください。

Q 異常姿勢に関与している筋と、随意的に(頭位偏倚を矯正するために)緊張させている筋の見分け方は?

A 痙性斜頸の原因筋は、個々の異常姿勢ごとにほぼ解明されていますので、原因筋として理屈に合っているかという観点から判断可能です。偏倚を矯正するために緊張させている筋にボトックスを投与すると、かえって増悪する可能性があります。

Q 誤って標的筋以外に施注した場合の影響は?

A 注射した筋が斜頸姿勢に拮抗する筋であった場合や偏倚を矯正するため(随意的)に緊張させている筋に投与すると、斜頸姿勢が悪化すると考えられます。

Q 前屈の患者さんに対して、両側への胸鎖乳突筋に投与してよいですか?

A 嚥下障害発現のリスクを抑えるため、両側の胸鎖乳突筋への同時投与は行わないでください。

そのため、片側ずつ治療する必要があります。患者さんが前屈とともに回旋を合併している場合は、右回旋なら左側、左回旋なら右側の胸鎖乳突筋に投与してください。

Q 心因性の痙性斜頸に対する効果は?

A はっきりと心因性とわかる場合には、ボツリヌス療法の対象にはなりにくいと考えられます。

Q 痙性斜頸におけるボトックスの安全性は?

A 痙性斜頸を対象とした使用成績調査10645症例中、508例(4.77%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。その主なものは、嚥下障害208例(1.95%)、局所性筋力低下89例(0.84%)、脱力(感)31例(0.29%)でした(再審査申請時)。なお、痙性斜頸の国内臨床試験において本剤との因果関係が完全には否定しきれない突然死が1例報告されています。

小児脳性麻痺患者の下肢痙縮に伴う尖足

Q 緊張筋を同定することが困難な場合はどのように判断すべきですか?

A 小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足の治療では、筋ごとの適切な部位および投与量に十分注意する必要があります。緊張筋の同定が困難な場合には、筋電計、超音波検査、スティミュレーターなどを用いて、注意深く目標とする筋を同定してください。とくに後脛骨筋は脛骨の後部にあり、直接触診することができないので、超音波ガイドや筋電図モニターによる同定が推奨されます。

ボトックスについて

Q 痙縮が重症な場合、投与量を増やせば効果は高くなりますか?

A 疾患の重症度に応じて高い用量を投与しても、効果は期待できない場合があります。できるだけ少量から投与を開始してください。初回推奨投与量は4単位/kgとしています。投与部位も推奨の部位から始めて、効果不十分な場合に範囲を広げるようにしてください。

ボトックスについて

Q 患者が施注をとても痛がりますが、痛みを軽減させる方法はありますか?

A 下腿筋への施注の場合、23~30ゲージ針が用いられ、一般に細い針のほうが痛みが少なくなります。ただし、体動が大きい場合には針が破損する危険があるため、細い針で施注する場合には、十分な注意が必要です。安静を保てない患者には、鎮静薬や局所麻酔薬を適宜併用します。しかし、安静によって痙縮が軽減されてしまい筋の同定が難しくなりますので、施注部位は鎮静を行う前に確認・決定しておくようにしてください。

Q 腓腹筋に投与しましたが、十分な効果が得られませんでした。投与部位を変えたほうがよいでしょうか。

A 初回投与以後、効果が不十分な場合には、ヒラメ筋、後脛骨筋等へ投与することができます。また、症状に応じて適宜増減することができますが、1回の総投与量は200単位を超えないようにしてください。再投与は前回の効果が消失した場合に可能になりますが、3か月以内の再投与は避けることとされています。

ボトックスについて

Q ボツリヌス療法を行っている間は、リハビリテーションは行わなくてもよいでしょうか。

A ボツリヌス療法は理学療法等の標準的治療の代替にはなりませんので、リハビリテーションと併用して行うことが大切です。この治療を行うことで、痙縮が改善されて運動性が高まれば、リハビリテーションがさらに効果的に行えるようになります。

Q ボツリヌス療法の効果について客観的なデータはありますか?

A 海外の多施設無作為化二重盲検試験のデータがあります。2~16歳の脳性麻痺における下肢痙縮に伴う歩行可能な尖足患者114例を対象に、ボトックス投与群56例、プラセボ投与群58例に無作為に割り付け、ボトックス4単位/kgを腓腹筋に投与(両下肢の治療には分割して投与)し、観察的歩行評価、足関節の受動的可動域および随意的可動域の変化を治療前後で比較しました。その結果、PRS(Physician Rating Scale)による歩行パターンスコアでみた有効率は、すべての観察週において、ボトックス投与群がプラセボ投与群に比較して有意に高いという結果が得られました。有効率は投与8週後で最も高く、ボトックス投与群61%(31/54例)、プラセボ投与群25%(14/55例)でした。また、足関節の随意的可動域は、投与4週間後および12週後の評価においてボトックス投与群で有意に大きくなりました。

Koman LA et al. J Pediatr Orthop 2000: 20; 108-115.

Q ボツリヌス療法の副作用としてどのようなものが報告されていますか?

A 海外における多施設無作為化二重盲検試験では、ボトックス投与群17%(12/72例)、プラセボ投与群4%(3/73例)に副作用が認められましたが、いずれも軽度から中等度で、投与中止例はありませんでした。主な副作用として、下肢の脱力2件、下肢の疼痛2件、転倒2件が報告されました。また、海外で215例を対象に実施された臨床試験(前方視的オープンラベル試験)における副作用発現率は31%(67/215例)でした。おもな副作用は、転倒20例(9%)、下肢の疼痛5例(2%)、下肢の脱力5例(2%)、全身の脱力4例(2%)でした。

Koman LA et al. J Pediatr Orthop 2000: 20; 108-115.

ボトックスについて

Q 小児脳性麻痺患者の下肢痙縮に伴う尖足におけるボトックスの安全性は?

A 2歳以上の尖足を有する小児脳性麻痺患者における下肢痙縮を対象とした海外臨床試験215例中、副作用発現率は67例(31%)でした。その主なものは転倒20例(9%)、下肢の疼痛5例(2%)、下肢の脱力5例(2%)、全身の脱力4例(2%)でした(承認時)。

重度の原発性腋窩多汗症

Q 原発性腋窩多汗症に対してボトックスを投与するときのポイントは?

A 投与量は片腋窩あたり50単位(両側合計100単位)、注射部位数は片腋窩あたり10~15ヵ所(両側合計20~30ヵ所)です。約2mmの深さに皮内注射を行います。

ボトックスについて

Q 注射時の痛みを軽減するためにはどうすればよい?

A 痛みの程度には個人差がありますが、一般的には細い注射針を用いたほうが痛みは軽減しますので、30~32G程度の細い針を使用することが推奨されます。また、アイスパックや氷で注射部位を事前に冷やすことでも痛みは軽減します(投与直前に30秒~1分程度)[1]。局所麻酔薬の外用剤を用いる場合もあります。

  1. Bechara FG, et al. Skin cooling for botulinum toxin A injection in patients with focal axillary hyperhidrosis: a prospective, randomized, controlled study. Ann Plast Surg. 2007; 58: 299-302.

ボトックスについて

Q 原発性腋窩多汗症に対してボトックスを投与したときの有効率(改善率)は?

A 国内臨床試験において、両腋窩の発汗重量の平均値が投与前に比べて50%以上減少した被験者の割合は、投与後4週の時点でボトックス群96.2%、プラセボ群45.9%でした。

Q 原発性腋窩多汗症に対してボトックスを投与したときの副作用発現率は?

A 国内臨床試験では、ボトックスを投与された144例中3例(2.1%)に副作用が認められました。その内訳は、発汗3例(2.1%)、四肢痛1例(0.7%)でした。

Q 原発性腋窩多汗症に対してボトックスを投与してから、効果が現れるまでの日数は?また、効果の持続期間は?

A 個人差はありますが、通常は注射後2~3日で効果が現れ、1~2週程度で安定します。効果の持続期間は通常4~9ヵ月程度です。

Q 欧米諸国では、原発性腋窩多汗症治療におけるボツリヌス療法はどのように位置づけられていますか?

A 海外の診療ガイドラインでは、塩化アルミニウム外用剤(2012年11月の時点で本邦未承認)が無効な場合、あるいは副作用により塩化アルミニウム外用剤を継続できない場合の第2選択治療としてボツリヌス療法を推奨しています[1]。また、ボトックスの原発性腋窩多汗症の効能は、米国や英国、フランス、ドイツをはじめとする60ヵ国以上で承認を得ています。

  1. Hornberger J, et al. Recognition, diagnosis, and treatment of primary focal hyperhidrosis. J Am Acad Dermatol. 2004; 51: 274-286.

Q 日本の診療ガイドラインにおいて、原発性腋窩多汗症に対するボツリヌス療法はどのように評価されていますか?

A 2010年に公表された日本の診療ガイドライン[1]では、ボツリヌス療法は診療アルゴリズムにおいて塩化アルミニウム外用剤(2012年11月の時点で本邦未承認)に次ぐ第2選択治療と位置づけられています。

  1. 田中智子ほか.原発性局所多汗症診療ガイドライン.日皮会誌.2010; 120: 1607-1625.

Q 重度の原発性腋窩多汗症におけるボトックスの安全性は?

A 原発性腋窩多汗症患者を対象とした国内臨床試験において、総症例144例中3例(2.08%)に副作用が報告されました。その内訳は発汗3例(2.08%)、四肢痛1例(0.69%)でした(承認時)。

製品名はすべて、グラクソ・スミスクライン、そのライセンサー、提携パートナーの登録商標です。
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